こんばんは!
グリーンシトラスプロジェクトとして、これまで様々な香酸柑橘の情報や生産者の物語、販売企画などをさせていただきました。(詳細は過去の記事をご覧くださいね)
今回は、柑橘と共に生きる山の暮らしについて書きたいと思います。
私たちが暮らす日本の特徴の一つが、高い森林率です。日本の森林率(陸地面積に占める森林面積の割合)は68.5%で、先進国(OECD加盟34ヵ国)の中ではフィンランドに次いで第2位となっています。(2015年版 世界森林資源評価(FRA)の報告書より)
そして、香酸柑橘の代表格である柚子の生産量日本一を誇る高知県の森林率は、83.6%で日本第1位。(2017 総務省統計局データより)
山は水捌けがよく、日光がよく当たり、高低差による1日の寒暖差が激しい。それは、まさに柑橘が好む土地。
山地の柑橘畑を訪れる中で感じるのは、山で暮らす人々の暮らしが、今も変わらずそのままそこにあるということ。それは、利便性を追求したこの令和時代の暮らしとは、かけ離れた暮らしのように見えました。
毎回訪れる度に感動する土地の一つが、ここ、高知県香美市物部(ものべ)町仙頭(せんどう)。中でも「影仙頭(かげせんどう)と呼ばれるこの地区は、古くから柚子の産地として知られています。先日の記事「柚子の収穫のリアル。」で訪れた、高品質な青果柚子「柚月(ゆづき)」が獲れる地域の一つ。集落の中心に氏神様を祭る山があり、その周囲を無数の柚子の樹が囲んでいます。
香美市の中心部から北東に車で約30分。山道を上へ上へと進む時間は、地域の市街地から山の中へ、少しずつ時代を遡っていくような感覚になります。川を越え、小さな集落をいくつも過ぎたその先に、その集落が現れる。ジブリ映画を思わせるような、秘境のような場所です。
知り合いがいないと絶対にいけないような場所。
今回は、柚子農家の坂本さんを訪ねました。
影仙頭の中でも山の上の方に、坂本さんの暮らしがあります。
影仙頭で柚子農家を営む坂本さんご夫婦。この集落出身のご主人の浩幸さんと、山を越えた先にある芸西村から嫁いだ奥さんの由美さん。山肌に暮らしながら、高いところだと標高600mほどの広大な山で、数千本の柚子を育てています。
外から来る私たちをいつも明るく出迎えてくださる仲良しご夫婦です。
ここの暮らしは、常に山と共にあります。
野菜は全て家の前の畑で育て、季節の山菜を採り、椎茸を育て、生姜を掘り。食卓に彩りが欲しければミョウガを掘り、罠を仕掛けて鹿も獲ります。
↑大根、菜葉類、生姜、芋類、大豆など数十種類。伝統野菜も栽培している
↑山では季節ごとの山菜がたくさん採れる
↑立派な椎茸もこんなに!肉厚でとても美味しい
↑ミョウガの花を見たのは初めて!本当になんでも実る食材の宝庫
由美さんの案内で山を少し歩くと、「ほら、○○の花が咲いてる」とか、「わさびが生えてる」とか、「鹿が鳴いてる」とか。決して日常生活では見聞きできない体験がいくつもできます。
食材とは、山や川に実るもの。
食べるとは、自然の命をいただくこと。
スーパーやネットで買うのが当たり前という自分の中の常識が、ガラガラを音を立てて崩れていく。。
ないものは作る。
手に入らないものはない。
数年前、甚大な被害をもたらした豪雨災害で集落が孤立した時、救援物資を運ぶヘリコプターがカップラーメンなどの食品を運んで来たそう。「その時、ここらの人はみんな『そんなのいらんで!うちには米と野菜と椎茸と肉と、食べるものはなんでもある!』と言ったがよ(笑)」と由美さんは笑いながら教えてくれました。凄い。
とれたものは無駄しない。そのための保存方法も祖母や母から受け継いだやり方です。
とうもろこしや玉ねぎ、大豆などの豆類は干して長期保存。大根などの野菜は大きな樽にいくつも漬けて漬物に。味噌を作り、干し柿を作り、魚も干物に。
庭のいたるところで植木を育て、季節の花を愛で、楽しむ。
↑「見てみて!」と見せてくれたミニ盆栽。なんと陶器の器も手作り。
お風呂はなんと薪風呂。山で木を切って乾燥させ、燃料に。
「追い焚きできないのきつくないですか?」と何とも現代人らしい質問をすると、「薪風呂は朝まで温かいよ。」と。知らなかった。。
山や畑で食べるものを作り、保存をし、植物を育て、薪を割る。
本当に今日は2020年なんだろうか?と時空を疑いそうになっていると、由美さんが山の宝物たちで手作りしたご飯を出してくださいました。
・ちらし寿司(寿司酢はもちろん柚子果汁)
・土佐郷土料理"けんかもち"(さつま芋、里芋をつぶして塩・砂糖と一緒に丸めた"もち”にきな粉をまぶしたもの)
・チャーテ(はやとうり)の炒めもの
・大抜茶、柚子ジュース
飲み物まで素材も含めてすべて自家製です。(どれもめちゃくちゃ美味しかった!)
この地域のちらし寿司や田舎寿司のご飯には、小さな小魚が。
寿司飯のお酢代わりに柚子酢(ゆのす)という100%柚子果汁を使うのは高知県全土で共通ですが、小魚が入るのはこの地域の特徴。
海に面した高知県とはいえ、昔は山で暮らす人々にとって鮮度の高い魚はとても貴重でした。その頃、山間部の物部町から、塩市が開かれていた沿岸部の赤岡町へは「塩の道」と言われる交易道がありました。そこを通って、山から野菜やお米を馬に乗せて行商していたそう。その帰りに、赤岡でとれた魚介類を乗せて帰り、小魚を干物にしてお寿司へ入れるようになったそうです。
山に暮らす人々にとって、干した魚は貴重なタンパク源。そして、柚子のきいたお寿司もご馳走。その知恵と習慣は、今も当たり前に受け継がれています。
柚子の収穫の合間、10時と15時のおやつの時間には手作りのおやつが。
畑で作った里芋に、甘く仕上げた自家製の柚子味噌をつけて食べたり、柚子の皮を甘く煮たジャムのようなものを入れたおまんじゅうを作って食べたり。
本当に、何でもあるし、柚子で何でも作ってしまうんです。
↑ホクホクの里芋に甘い柚子味噌がぴったり
↑由美さんお手製の柚子まんじゅう。椿の葉で挟んで蒸すそう。
↑中には柚子の皮を甘く煮たジャムあんのようなものが。めちゃくちゃ美味しい。
柚子は、搾れは酢や飲料に。
煮れば甘味に。
蒸してまんじゅうに。
冬至になれば邪気を払う柚子風呂に。
斜面での栽培管理は大変だけれど、その分暮らしのあらゆる場面で人の役立ち、生活を彩るかけがえのないものなのだと改めて感じます。
そして、そんな柑橘を育てる山の暮らしは、先人の知恵と当たり前を、今も当たり前に続ける暮らし。
古く見えて、とても合理的で効果的。
山をみて季節を感じ、その恵みをいただく。
摂理に争うことなく、あるものに感謝する。
山の暮らしは、不便なんかじゃなかった。
あるものを生かす知恵と、生きることへの感謝に溢れた暮らし。
現代の便利な暮らしとは何なのか?
豊かとは何なのか?
進化とは何なのか?
ここに来ると、そんなことを考えます。
自然のようにあるがまま。自分らしく。
良いも悪いも受け入れて、時に身を委ねる。
そんな風に生きていくことが、「豊かに生きること」なのかなと感じました。
◆物部産の柚子(別名:マルブツの柚子)
出荷時期:8月中旬~3月下旬
・8月中旬~9月中旬:青柚子
・9月中旬~10月下旬:カラーリング柚子(エチレンガスをかけて皮を黄色くした柚子)
・11月:黄柚子出荷開始
・12月:冬至柚子出荷開始
・1月〜3月:長期貯蔵柚子(黄柚子)※坂本さんを含む一部生産者のみ
2020年、物部柚子は農林水産省のGI(価値ある産地としての日本地理的表示)に認定。
青果としての柚子の出荷で有名な産地で、中でも「柚月(ゆづき)」は高品質品種として全国で評価高く取引されている。
◆YUMI FARM
坂本さんご家族が作る柚子や、柚子で作る味噌、シロップなどを加工・販売。地元の直販所などで季節の野菜や土佐の伝統野菜の販売も行う。また、畑を貸しての野菜作り教室や、干し柿や田舎寿司作りが体験できる教室も開催している。
by Green Citrus Project
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