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執筆者の写真Satoko Asano

柚子の収穫のリアル。

こんばんは。季節外れの暖かさの日が続いていますね。

日中はちょっと長めの半袖なんて時間も。本来であれば秋から冬へ移行するこの時期ですが、外での作業も汗ばむような日が続いています。


さて、今回お伝えしたいのは【柚子の収穫のリアル】。

3年前から、毎年この時期になると柚子農家さんの収穫に参加させていただいています。産地在住バイヤーとして(本業は都会のお弁当屋さんの産地在住バイヤーをしています)、物や人の素晴らしさを伝えることはもちろんですが、目を背けられない産地の課題にも直接的・積極的に関わっていきたいと考えています。

そうして少しずつではありますが、体験という形ではなく、出来るだけリアルな作業者として関わらせていただくことにしています。



この3年間関わってきて、最も過酷だなと感じる作業の一つが、柚子の収穫です。


今や世界的にも「Yuzu」として知名度が上がり、一般的なスーパーや、調味料などの加工品でも目にする機会が増えてきた柚子。柚子を見て「めずらしい!」と言われることが少なくなったなーと嬉しく感じることもあります。身近に感じる反面、手に届くまでの細かな作業についてはなかなか知る機会がないのも事実。

そこで今回は、そんな過酷な作業の一部をご紹介します!

作業させていただくのはこちら、先日原宿のeatripさんでも販売させていただいた柚子を作っている、高知県香美市物部町です。今年、農林水産省のGI(価値ある産地としての日本地理的表示)にも認定されました。

青果としての柚子の出荷で有名な産地。中でも「柚月(ゆづき)」は高品質品種として、全国で評価高く取引されています。


見渡す限り、山・山・山!

そして柚子・柚子・柚子!

果樹にとって良い、水捌けの良い斜面。そこに住みながら、何千本もの柚子を栽培している地区です。


私も3年目とはいえ、ダントツの「ペーペー」ではありますが、だからこそ感じる柚子収穫のリアルをお伝えできればと思います。


①:とにかく、トゲとの戦い。

一つ目は、このトゲ。

主枝だけでなく、全ての枝に強烈なトゲがあるのが柚子の特徴。前に一度、持ち帰った柚子の枝にトゲがあり親指の先に刺さったことがあるのですが、肉まで到達して刺さったのが一瞬でわかるくらいの激痛と、押さえても血は止まらず、数日間痛みを感じながら過ごしたことがあります。そのくらい、トゲというよりはむしろ凶器です。

向きもあちこちで、長さもまちまち。最短でも2cmはあり(写真右の緑のトゲは5cm以上ありました)、綺麗な玉や香り高い果汁からは想像することもできないほど鋭利で強いトゲ。垂直に踏めば靴底を突き破ることもあるそう、、恐ろしいです。


柚子の木は2mを軽く超えます。上から下まで、そして外側から主枝に近い内側まで、満遍なく実がなります。あのトゲトゲの中に、体ごと突っ込んでいくような体勢になることもしばしば。手には革製の頑丈なグローブを、腕には生地の厚いアームカバーを、そして頭を保護する帽子も欠かせません。

3年目のペーペーとしては、ゴーグルやフルフェイスのヘルメットをしたいくらいです。


果実を手に取ろうとも、トゲトゲの枝に挟まっていたり。手を伸ばす角度や、果実に行き着くまでの「いばらのルート」を模索しながら作業します。全然サクサク採れない。涙



②:とにかく、傷との戦い。

自分にトゲが刺さることはあっても(それも十分痛いけど)、果実に傷がつくことは致命的。生育段階でついてしまった傷は仕方がありませんが、収穫の時には絶対にダメージを与えられません。


収穫する時に枝を引っ張ると、果実を切った反動でトゲトゲの枝が戻ってしまい、そのトゲが別の果実を傷つける可能性があるので、やはり自分の腕を果実の近くまで伸ばすしかありません。確かに、山の中に響くのは「パチンッ、パチンッ」と枝を切る音のみで、枝が揺れて葉が触れ合うような音はほとんど聞こえません。自分の枝が「ワサッ」と音を立てるととても目立つので、その度にヒヤッとします。


その後、採った果実は腰に巻きつけているカゴからゆっくりとコンテナへ。腰を低く落とすかかがむかして丁寧に入れていきます。ゴロゴロ、ボンボンッと放ったりは絶対にしません。この動作だけでも結構な運動。そして、時間がかかる。

この時点で、「青果玉として出荷できそうな傷の少ない玉」と「傷が多い果汁用の玉」とに分けていきます。


左のコンテナが青果玉候補生で、右のコンテナが果汁用。右のものも十分切に見えますが、プロの厳しい目で振り分けられていきます。ここでは仮の選別で、農家さんは夜暗くなってから、そこからさらに一玉一玉選別しています。(この時期は朝早くから夜遅くまで作業する日が続きます)



なぜここまで繊細に扱う必要があるのか?

一見、柚子の皮はゴツゴツしていたり分厚そうで強そうなのですが、実は傷や水にとっても弱いのです。傷やトゲが刺さった穴があると、そこから一気に腐敗が進みます。雨が降ったりすると、傷から水が入り、傷みはさらに加速。小雨だとしても、雨が降ると一斉に作業を引き上げ、その日と翌日の午前中くらいまでは収穫作業はストップせざるをえないのです。

変わりやすい山の天気の中で、天気予報や雲の動きを敏感に確認しながら、最も効率的なスケジュールを組み立てていきます。


綺麗な果実なのに、ちょっとトゲが刺さっています。これも劣化の原因。


トゲの跡、見えますか?素人目にはとても綺麗なのに、これだけで品質のランクが落ちるそうです。

実際に傷を見極めるために、収穫した柚子は3〜5日ほど冷蔵倉庫で保管されます。収穫時には見えなかった傷みがたった数日で可視化できるようになり、そこで初めて選別されます。(それくらい傷からの劣化が早いということ)

私たちが店頭で見ている柚子は、本当に厳選されたものなんですね。



果実を切るときは、必ず二段階でカットします。最初は果実から1〜2cmのところで枝を切って、その後に果実を傷つけないように慎重に枝を切り落とします。決してハサミの刃先が果実に触れないように。


ヘタの部分の枝をギリギリまで短くします。少しでも長いと、コンテナの中で他の果実を傷つけてしまうからだそう。気が抜けません。。



果実を傷つけないように、ハサミの刃先はやや上向きに曲がっています。

私も同じような形のハサミを買って持って行ったのですが、安いものだったので刃先が曲がっておらず、「そのハサミは2度と使ってはならぬ」というご指導をいただきました。


トゲで傷つけないようにして・枝を揺らさず果実を採り・果実にハサミが触れぬように枝を切り揃え・一玉一玉コンテナに入れ・細かな傷を確認して選別する。これだけ繊細な作業が続くのですから、一つ一つの動き、道具にも注意が不可欠なのにも頷けます。



③:とにかく、高齢化・継承者不足との戦い。

この地区での柚子の収穫は、11月いっぱい。約1ヶ月という短期間で、天気を見ながら、たった数名で数千本の柚子の収穫と選別を行い出荷します。作業効率と、丁寧さを両立しながらの緊張感漂う期間です。


そして、それらを継承してきた人たちの年齢は、現在平均70歳を超えています。

80歳を超えても、現役で高い場所の作業をすることも。


木の一番高いところは、脚立に乗っての作業が必要。


姿勢をかなり低くしないと取れない果実もたくさん。


1日収穫しただけでも、翌日は疲労感が身体中に漂います。この作業を1ヶ月間毎日。。もちろんこの時期だけでなく、畑の整備や枝の選定、一つ一つの果実の袋がけなど、1年を通してやることは満載です。



生産者の高齢化と後継者不足。

日本の一次産業、もはや一次産業以外でもこの問題は大きく立ちはだかる問題です。

中でも柚子は、収穫には一定の技術が必要。一時的に人数がいれば良いという訳にもいきません。さらに、作業は山の斜面。何トンもの柚子を運搬する作業もあります。

こうした課題に、産地としてどう取り組むのか。高知の、四国の世界に誇れる柑橘をどう維持していくのか。個人の視点と、産業の視点。技術革新や生活様式の変化。そういった視点を多角的に持ちながら、取り組みが進めやすい単位での早い動きが不可欠だと感じます。



では、私にできることは何だろうか?


微力ではありますが、こうして「大変」「課題」という言葉をより具体的に噛み砕いて伝えること。まずできることか始めてみて人と繋がりながら、一定規模でマネタイズできるサービスにすることで、収益を上げ続けられる産地に貢献すること。


このプロジェクトの最終目的は、そこだと感じています。

美しい産地と、美味しい食卓と、人々の暮らしが続きますように。

これからも、できることから一つずつ動いていこうと思います。


 

by Green Citrus Project

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●次回は11/30

幻の柑橘「花良治(ケラジ)」とは!?


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