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  • 執筆者の写真Satoko Asano

「幻の柑橘」花良治(ケラジ)

更新日:2020年12月1日

この名前、ご存知でしょうか。

「花良治(ケラジ)」

高知で毎年開催される30種類以上の香酸柑橘が一気に集まる「土佐の酢みかん&土佐寿司祭り」でも、多くの方が「最も面白いと思った柑橘」に選ぶ柑橘です。


「花良治」または「花良治ミカン」とも呼ばれていますが、人々を虜にするのは、その独特で大変スパイシーな香りであろうと思います。外皮は艶があり、両手の中にすっぽり収まる大きさで、触っていてもなんだかとても気持ちよく感じます。

皮に少し爪を立てると、爽やかでみずみずしく、しぶきが弾けるような香りの中に、ピリリとした調合されたスパイスのような香りを感じることができます。これは面白い。

高知県だと出荷が始まるのは10月中旬から。その頃は深い緑色をしていて、青柚子の色を想像させるので、「酸味が強そうだな」と感じます。

(写真は11月中旬のもの。やや黄色くなってきています)

想像力を掻き立てられたまま、カットすると…

開いてびっくり!果実は想像以上にオレンジ色をしています。

完熟になる12月中には、オレンジ色がより濃くなります。

果汁を口に含むと酸味より甘みを感じ、花良治「ミカン」と言われる理由が想像できます。


花良治は約200年前、ある男が鹿児島から喜界島東方の一孤島に漂着し、その島で見つけた柑橘の苗を喜界島の花良治集落に持ち帰ったのがはじめだとされています。(木村勝太郎, 谷中登希男著『香酸柑橘 Ⅲ巻 日本の酢みかん』原田印刷出版, 1995年)

病気に弱く栽培が難しいため、現在の生産量は非常に少なく、「幻の柑橘」と呼ばれています。またビタミンCを多く含み、喜界島では青切りでも食べられているそうです。

高知でも柚子や小夏を含む多くの柑橘を「酢みかん」として青切りで楽しむので、ファンが多いのも頷けます。


さらに花良治には「ポリメトキシフラボノイド」という成分が多量に含まれており、鹿児島大学と喜界町との共同研究では、ガン抑制成分があることが証明されています。この成分は温州みかんやレモンにはほとんど含まれておらず、近年ではアルツハイマーにも効果があると言われているそうです(喜界町ホームページ「島みかん」より)


 

この「幻の柑橘」を高知県で栽培し、数年前に香酸柑橘ファンを驚かせた人物がこの方。

高知県安芸市にある岡宗農園の岡宗俊介さん!

5年前に神奈川県からUターン、実家の岡宗農園の経営に加わり、今はご家族で植木の生産・卸業、園庭店「メリーガーデン」の運営、トロピカルフルーツをメインとした果物の生産をしています。


現在34歳で一児の父でもある岡宗さん。

農業とは違う機械系の分野を学び、地元の高専を卒業してからは、「なんとなく」高知を出て、そのまま神奈川県の企業に就職しました。

遠心分離機で高い国内シェアを誇る企業での仕事は面白く、全国の下水処理などのインフラ整備や、中国や台湾でも技術を活かした仕事をしていたそう。


仕事も一層面白くなってきた社会人6 年目の時、高知に住む父から一本の電話が。

その電話の内容は、会社経営の悩み相談でした。


やっと面白くなってきた自分専門分野を活かした仕事を辞めて、地元に帰る。

その決断は決して簡単なものではありませんでした。


年収は1/3になる。

専門分野ではなく、農業という新しいフィールド。

親子で仕事をする漠然とした不安。


相当悩みましたが、最後は「実家の事業」に対して感じる「やらなきゃいけない」という強い責任感が勝り、覚悟を決めて高知に帰ることに。「自分で決めたことだから」と自分に言い聞かせながら新しい生活をスタートしました。

その頃、事業は「次の一手」を模索していました。今では人気の岡宗農園のトロピカルフルーツ。中でもマンゴーは高い糖度とさっぱりとした後味が特徴で、「甘ったるくなくてとても美味しい」と多くのファンがいます。


岡宗さんが高知に帰ってきたときは、マンゴーを事業の軌道に乗せることから始めました。主事業の植木の生産は、リーマンショック以降市場が伸び悩んでいたため、次世代につなぐ新たな事業が必要だったのです。


「植木事業はほとんどお客様に会うことがなく、商品は全て規格が決まっているんです。市場の規格・基準で商品を作ります。」

生産した植木のほとんどは卸業者へと渡り、いくつかの業者の手を通じてお客様の手元へ。お客様というよりは、決められた規格をゴールに作るのだそう。


「それに比べて、果物は自分が美味しいと思うものを作れて、そこに共感してくれるお客様の顔が見えるのが嬉しいです。」

自分が納得できるものを作れて、お客様の喜ぶ顔をゴールに作れる。

そんな農業の魅力に、次第にのめり込んで行きました。

「花良治を始めたのは、父が友人に苗をもらってその味に惚れ込んだことから始まったんです。」

父が模索した新事業と可能性を感じた柑橘。中でも花良治は病気に弱く、栽培難易度が高い。それでも帰ってきた時に決めた覚悟を胸に、栽培技術を着実に高め、生産量を増やし、今ではファンを驚かせる柑橘に成長させました。

岡宗さんにとっては「なんとなく」出て行った地元、そして家業。

しかし今は、それらを自らの使命と自負し、事業を継承していこうとしています。

事業、そして地域をどう進化させていくのか、岡宗さんの今後の挑戦に注目です。

 

◆花良治(ケラジ)

出荷時期:10月中旬~12月下旬

◆岡宗農園

高知県安芸市で植木・花苗の生産、販売を主に、カフェを併設する「メリーガーデン」を運営。マンゴーやライチ、パッションフルーツや小夏、花良治などの柑橘類を生産。

 

<岡宗さんとの対話を通じて>


ものづくりで発展した成長社会が終わり、日本は成熟社会となりました。

今年はコロナウイルスのこともあり、これまで以上に社会は激しく変わっています。


現代のライフスタイルに合わせて事業を進化させること。


故郷の事業を継承するということは、これまで以上に未来を見据えた挑戦と変化への適応が必要になると思います。

人口減少がすすむ環境の中で、県外での経験を活かしたより広い視野とチャレンジ精神で、岡宗農園さんがこれからどう進化していくのか。そして、岡宗さんと同じような境遇の若い世代の事業継承者一人ひとりがどうタッグを組むのか。


私も同年代の地方出身者・事業者として、横のつながりを広げ深めていきながら、変化する時代の中の地域と産業の発展に尽力していきたいと強く感じました。

 

by Green Citrus Project

●隔週 月曜日 更新!(旬の時期は毎週更新)

●インスタグラム @green_citrus_project


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