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  • 執筆者の写真Satoko Asano

土佐ベルガモット栽培の本質

こんばんは!

2020年も残りわずか。この香酸柑橘を語らずして年は越せないということで、本日の柑橘はこちら、土佐ベルガモットです。


ベルガモットは、主に南イタリアなどの温暖な気候の産地で育てられ、アロマセラピーや香水などのフレグランス類、アールグレイの香り付けなどに使用される世界的に有名な柑橘です。果実は苦味が強いので食べることはありませんが、皮から醸し出される香りや油は大変価値のあるもの。

それが国産となれば産地は限りなく少なく、さらに毎年安定した供給量がある高知は非常に貴重な産地だといえます。その証拠に、毎年多くのシェフやパティシエ、アロマデザイナーたちが産地を訪れ、その魅力を感じて作品作りに生かしてくださっています。

今回訪れたのは、そんな貴重な国産ベルガモットの栽培に12年前から取組み、地道な研究と試行錯誤を経て安定供給を実現した、株式会社にしごみ(旧:西込柑橘園)さんです。


約60年前、社長の西込浩一さんのお爺様が開梱された柑橘畑。その後、浩一さんのお父さんで会長の嵩さんが「ビタミン豊富で栄養の高い柑橘を人々に」との思いでみかん事業を拡大。浩一社長にバトンが渡された昨年2019年9月には、柑橘園を法人化されました。

法人化の背景には、「3人の息子たちに平等に価値を継承してもらい、次世代に続く産業にして欲しい(浩一社長)」という思いが。

現在は、嵩会長、浩一社長、長男の智希さん、次男の郁弥さん、三男の陽星さんの親子3代5名が中心となって栽培をし、嵩会長の妻 まりさん、浩一社長の妻 寿恵さん、浩一社長の妹 優子さん、郁弥さんの妻 南美さんが販売管理などを支え、文字通り「家族経営」をしている農園です。


温州みかんをはじめ、土佐文旦、不知火(しらぬい)、小夏、ポンカンなど様々な柑橘を栽培。その中で近年需要が高まっているのが、土佐ベルがモットです。


↑土佐ベルガモット。12月頃から果実は黄色に色付く


西込さんのベルガモット栽培のきっかけとなったのは、地球温暖化。四国は元々温州みかんや柚子などに代表される柑橘の名産地ですが、年々の温暖化が続けば、いつかはそれらも栽培が難しくなると言われています。

柑橘のプロとして次世代に受け継ぐ価値ある産地を目指すために、西込さんは12年前、地元の方々と一緒に土佐ベルガモットの栽培に乗り出しました。当時は栽培知見がほとんどなかった未知の柑橘。温度管理や台木の選定など、この土地で最高のベルガモットを栽培するべく、今日まで地道な研究を重ねてきました。


みかんとも柚子とも、その他の高酸柑橘とも全く異なる香り。土佐ベルガモットからは、上質な苦味と複雑なスパイスを鼻から感じとることができます。まさに香りを楽しむ柑橘。


5年前には約200Kgほどだった収穫量も、現在では約6トン程にまでに拡大。

西込さんたちの想いに共感した全国のプロの方々が、その果汁や果皮を使ったスイーツやドリンク、塩やお酒などの様々な商品に編集して国内外に発信しています。(ちなみに私は、湯豆腐にベルガモット塩をかけて食べることにどハマりしています!めちゃ旨です)


 

高知市春野町にある西込さんの柑橘山に行くと、丁寧に積み重ねられた石垣で築かれた段々畑に、種類豊富な柑橘がきっちりと整列しています。山の上を見上げれば、真っ青な晴天。絵具のような曇りのないターコイズブルーの空を見上げると、太陽がものすごく近く感じます。

山から下を見ると、周りの山々の峰が目線の高さにあり存分に自然を感じることができます。全ての山に日光が当たっていて、キラキラしてとても綺麗。自分という存在を小さく感じながらも、ここから世界を目指せるように気にもなる、不思議な魅力をもつ場所です。


作物や場所はもちろんなのですが、西込さんご家族に会うといつも感じるのが、仲の良さ。どなたに会ってもフレンドリーで、笑顔が絶えなくて、他の誰に聞いても「西込さんちは仲がえい」と言います。

 

そもそも、20代〜30代の息子さん3人全員が事業継承をすべく経営参加しているということだけでも驚きがありました。

近年、地域の事業継承の課題はどこも非常に深刻で、現代のライフスタイルやグローバル社会を考えても、若者が地域の産業を受け継ぐという選択は容易なものではないはずです。


ですが西込さん家族は少し様子が違う。

この日収穫作業をされていた次男の郁弥さんに話を聞いても「(家業に就職する)迷いは一切なかった」と言います。「小さい時から柑橘畑で働く祖父や父を見てきて、自分もここで働きたいと思っていた」と。

事実、郁弥さんは将来の農園経営を見据えて学生時代にマネジメントを学び、祖父や父と働く現場に迷いなく加わりました。



これはきっと家庭の教育環境にヒントがあるに違いないと、郁弥さんの祖父、嵩会長に話しかけました。ポンカンの収穫作業をしていらしたので、「作業されながらで大丈夫です」とお声がけしたのですが、スッと手を止めて笑顔で話し始めてくださいました。(ありがとうございます...!)

「お孫さんが事業参加に迷いはなかったとおっしゃってたんですが、どうして西込さんのお家はこんなに仲が良いんですか?」


そう聞くと、嵩会長がご自身のことをお話してくださいました。

「元々私の父は厳格な人で、母や家族にとても厳しかった。戦時中の男はそういうもんだったがやけど、自分はもっと家族が仲良く平等に暮らすことが幸せなんじゃないろうかと思うた。」

そう感じていた嵩会長は、自身も農園で働くようになった頃から、子供達(浩一社長達)を大事に育てることを一番に考えていたそう。そして、その日仕事中にあったことは全て妻のまりさんに話し、今後については何でも夫婦で話し合って決めたそうです。

さらに、家庭内はもちろん、幼稚園や小学校、中学校に人道教育をするようになり、農園を切り盛りする傍ら、家族の大切さや挨拶の大切さを地域の子供たちに伝えていました。


「山を開墾して、家族と仕事して、子供を育てて、仲の良い家族を残すことが目的。それから仲の良い地域ができれば、産業が盛り上がる。」

幸せな家族と地域を作る。みかんの栽培はその手段だったと教えてくださいました。


西込家の仲の良さの原点に触れたような感覚をもちながら、浩一社長に話を聞きました。

1年前の法人化という選択。その目的は、息子3人が担う次世代の経営のためだと。


「もう大量生産・大量消費の時代は終わったき、今まで通りの『量の物づくり』だけをしてもいかん。付加価値の高い商品作りに挑戦して、ここでしかできないものを作る必要がある。それに、効率だけを求めて、生活に余裕がなくなったら面白くない。農業の本質であるものづくりの追求をしっかりやっていきたい。」


浩一社長は高校を卒業後、1年間学校現場で会社員として働いたそう。家業のために事務や組織運営などを外で学び、その後農園運営に加わりました。


「家族が原点よ。」


そう言い切る浩一社長の周りには、旬の時期の収穫を担うスタッフの方々がいつも笑顔で話を聞いています。

「私は奈良から。」「僕は大阪から。」「僕は高知大学の学生です。」

ほとんどが毎年手伝いに来ているという方々で、みな家族のように話し、笑い、仕事を楽しんでいるように見えるのです。

「移住者はみんな高知を好きになって人生をかけて来てくれてるのに、拒む理由がない。」と浩一社長。巷では地方移住が増える反面、人間関係に悩む人も増えていると聞くが、ここには多様な価値観を受け入れ、平等に扱う寛大さと先進性があると感じました。


しばらく仕事の様子を見ていると、こんなやりとりが。


嵩会長から浩一社長へと作業の指示。それに「うん、うん、わかった。」と返事をする浩一社長。


今度は孫の郁弥さんから嵩会長に指示。「よっしゃ、わかった。」と嵩会長。作業が始まる。


その傍ら浩一社長が郁弥さんに、「上(の畑)へ上がるき、靴持ってきちゃおうか。」と。


一見なんでもない会話に聞こえるのですが、なんだか私にはとても新鮮でした。

当たり前に互いを思いやっていて、とてもフラットな関係。


先代に気を使ったり、経験の浅い世代に強く指導したり、親子間では会話量が少なかったり、ぶっきらぼうだったりすることが少なからずあると思います。しかしここにはそんな雰囲気はみじんもなく、全員が全員に対して「素直」という感じがしました。


3人から何度も出てくる「家族」という言葉。

それはきっと、血縁関係だけを指しているものではないと感じました。


近くにいる人の幸せを考える。

共に働き、過ごす人の行動と気持ちから学ぶ。

その人たちを尊重し、信頼する。


それができたときに、人は家族になり、幸せを感じるのだなと。

そして、次の世代を思ったビジョン。

そこに向けて、時代の変化に順応しながら進む。

ビジョンが明確で、そこに近づく実感があるからこそ、また人が共感し、家族になる。そうしてやがて地域や産業が保たれる。


土佐ベルガモットの栽培には、思いやりと信頼の土台、未来に向けたビジョンと挑戦、そしてそれに自ら参加する多様な人々で構成される「家族」の形がありました。


 

◆土佐ベルガモット

出荷時期:11月中旬~1月下旬

◆株式会社にしごみ(旧:西込柑橘園)

昭和37年創業。高知市春野町にて温州みかん、土佐文旦、不知火(しらぬい)、小夏、ポンカン、ベルガモットなど様々な柑橘を栽培。

 

by Green Citrus Project

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